あるピアニストの呟き - カワサキタカヲ3動向 -

ピアノトリオ「TAKA3」の関連記事を中心に音楽雑記帳としております。

M先生は今も心配しているのか?

「ベートーベンの後期三大ソナタ?十年早いよ!君には」
先生はそう言ってクスクスと笑った。

暗い畝裏。
斜め上から眺める自分はまるでドローンに乗っているようでもある。
左手向こうには大きな川が流れているのが分かるが、今ひとつ実態が掴めない。
堤防の内側には無数の平屋が規則正しく立ち並んでいるが、そこに人間的な営みは感じられない。
とにかく暗く、空気が淀んでおり目を凝らしても実像を捉えることが出来ない。
トボトボを道を歩いて行くと、しかしその平屋の一見にボンヤリとオレンジ色の灯りが灯っているのが見えて来る。
自分がそこに向って行くことが必然であり、予め決められたことのようでもある。

随分古いタイプの玄関ではある。
ガラガラと横に移動するタイプの木枠は、昔実家が平屋だった頃を思い出させる。
躊躇なくドアをあけると、薄暗い廊下の奥からM先生が歩いて来る。
ふと自分が鞄を持っており、その中に楽譜が入っていることを確信する。
楽譜はおそらく譜面の感じからシューマンであろうと、もう一人の自分が判断している気配がする。
先生は「やあ、、!どうだ調子は?」とあの懐かしい口調で声をかけてくる。
応えられないでいると「さあっ、さらおう、今日はどこから?」などと聞いて来る。
もう一人の自分が「今はもうクラシックは弾かないのです。クラシックピアノは僕の中では、、僕の中では、、僕の中では、、」とフィードバックが鬱陶しく続いて行く。
しかし、先生に対面する僕は、全く応えられない。
何か言葉を発しようとするが、先生の姿を見ていると何も言えなくなる。
ふと気が付くと、僕はやはり斜め上から川(のようなもの)の流れを見ている。
そして立ち並ぶ平屋の黒々とした影の中に、ポツンと一点オレンジ色の灯りが見えるのだった。

これは数年に一度ほど見る夢の内容です。不思議なのですが、細かいデティールは違うのですが、大体はこんな内容です。
登場人物は僕以外ではただ一人。M先生ということになります。
先生は恩師です。僕が音大3年生の時にお亡くなりになりました。
僕には分不相応な立派な方でしたが、夢の中でも立派なのには呆れます(笑)
嫁にこの夢のことを伝えると「心配しているんだよ」と。
何故か涙を堪えることが出来ない自分でした。

*冒頭で紹介しているアルバムはポリーニのベートーベン・ソナタ第13番となります。これは音大1年時の課題曲で調度その学期末の頃、妹が受験で上京して来たのを覚えております。ピアノを四畳半に置いて、狭いスペースに気にもせず寝泊まりしておりました。たまに再会すると、僕が如何にこのベートーベンをさらっていたか、、と懐かしいようです。久しぶりに聴いてみると意外に難しいですね。あの頃のピアノ科としては恥ずかしいテクニックの自分としてはよく弾いたものだと思います。頑張らなかった、、ということはない。今はそういう悲しい方向に考えないように(ようやくですが)なりました。結構頑張っていたのだ、そしてあの結末はやはり仕方なかった。無理があったのだ、、と素直に受止めている昨今の自分です。